環境と健康、疾病の関わりについて考える 2015年度

【授業の概要・目的】
 人の疾病(疾患・病気)や健康を規定する二大要因は、遺伝要因と環境要因です。遺伝要因は、体質というような言葉で表現されることもありますが、我々の遺伝子で規定される要因です。一方、環境要因は、周囲から降りかかる様々なストレスと言うことも可能です。本ゼミでは、環境要因、特に環境汚染に注目し、環境と健康・疾病の関係、関係に内在するメカニズムについて見識を深めることをめざします。

【授業計画と内容】
 まず、環境と健康、疾病の関わりについて2回前後で概説を加えます。ついで、水銀による環境汚染、カドミウムによる環境汚染、PCBを含むダイオキシン類による環境汚染、PM2.5をはじめとする大気汚染、放射線、紫外線による環境汚染、発展途上国における環境汚染、越境汚染、室内汚染、地球規模の汚染等による健康影響や疾病について、また、環境汚染物質の影響評価手法、環境汚染物質管理対策について、学んでいただく予定です。なお、上述の課題について、教員が問題を提起し、学生各自にレポートや発表を依頼し、それに基づいて討議することも予定しています。

****以下は生協発行のらいふすてーじ1月号より抜粋したインタビュー記事です****

◆現在の研究について教えてください◆
 環境汚染物質が、特に免疫系や呼吸器系に及ぼす健康影響の研究をしています。具体的には、PM2.5(下図参照)や、カーテンに含まれている難燃剤、プラスチックに含まれている可塑剤など、身の回りにある化学物質が健康に及ぼす悪影響を調べているわけです。細胞や生物の身体を壊すような強力な作用はあまり無いのです。ただ、そういった強い毒性以外にも健康に悪影響を及ぼすことがあるんです。
 僕はそのことを撹乱(かくらん)影響って呼んでいるんですが、そのわかりやすい例としてアレルギーが挙げられますね。アレルギーは我々の身体の免疫細胞が死んだり、弱ったりしているわけではないんです。逆に、不適切に活性化されて、普段は反応しなくていいようなものに反応して影響が起こる。要するに毒性ではなく、そういった不適切な活性化によっても僕らの健康に影響が起こるんだということです。そういう作用を今の環境汚染物質・環境化学物質が持っていないんだろうかということを調べています。また、最近はその細胞レベルでのメカニズムの解明も目指しています。

◆PM2.5に関しての研究は?◆
 同じく健康影響を研究しています。環境中のPM2.5を集めてその抽出物の影響を見たり、PM2.5に含まれているさまざまな物質を一つずつ細胞にかけて、その中のどんな物質が悪影響を及ぼすのかも研究しています。そうすることでPM2.5の中でもどういった成分が悪いのかということを明らかにしたいんです。
 今現在は、PM2.5そのものの全体量を計っているんですけれども、その中に何が含まれているかわからないので、その量の大小が必ずしも健康の影響を指し示す指標とは言い切れないのです。ある一つの物質でもいいし、ある性質に着目してでもいいと思いますが、存在量としてのPM2.5ではなくて健康影響量とでも言うべきものを表すことができるようになればいいな、というふうに思っています。

◆京大生に向けてメッセージをお願いします◆
 基礎的な科学にしても、我々が住んでいる社会にしても、いろいろな問題がありますよね? 完璧な科学もなければ、完璧な社会もないし、問題は絶対そこかしこに転がっています。だから、身の回りのことでもいいし大きな問題でも何でもいいと思うのですが、問題意識を持って、その問題を捉えて、いかに解決していくか。そういうことを研究でもいいですし、仕事でもいいですし、社会活動でも構いませんし、考えていってほしいです。
 そのときに、どんな重箱の隅のような小さい領域・分野でもいいんですけれども、やはり京大生である限りは世界のトップを目指してもらいたいですね。あとは自分の経験から考えると、何かを始めるのはいつでも遅くはないんだということです。僕が研究を本格的に始めたのは35歳を過ぎてからですし、やろうと思えばいつでも始められるんです。たとえば2、3年遅れたって、2、3年長生きしたら一緒なわけです。まず何か自分がやりたいな、やってみたいなと思うことがあればいつでも勇気を持って一歩を踏み出してほしいし、手を出して取りかかってほしいなと思います。決して遅いってことはないはずなので。

高野 裕久

工学研究科 都市環境工学専攻
1984 京都府立医科大学を卒業、その後神戸等の病院に勤務
1994 学位(医学)を取得
1995 国立環境研究所にて主任研究員に着任
2005 同研究所領域長に就任
2011 現職に着任