京都のエコツーリズム?森での感動とは何か? 2015年度

人間は、自然なしでは生きられない。
しかし、
現代人のくらしは、自然からかけはなれてきた。

 ここに、エコツーリズムがうまれ、価値を持つ理由があります。都会で暮らす現代人は、自然に触れることでリフレッシュし、野性の感覚が呼び覚まされる。自然を体験することが、私たちにどのような影響を与えるかを知ることが、このポケゼミの目的になります。

 京都は歴史の町。文化の町。しかしふと視線をあげると、この町は緑の山に囲まれていることを実感します。街中にも下賀茂神社の糺の森など、自然を感じる特別な場所がある。鴨川の河川敷は観光客にとっても地元っ子にとってもかけがえのない憩いの場所であり、すこし郊外に出るとパワースポットとして名高い鞍馬や貴船がある。さらに奥山に分け入ると、実は京都には、関西ではめずらしいほどの深山幽谷がある。このポケゼミでは、エコツーリズムがさかんな京都大学芦生研究林をベースに、現代に生きる私たちに自然がどのような価値を持つのかをさまざまな角度から学びます。

 私がなぜ森の研究をやってるかというと、森で感動したというのが原点です。私たち研究者は、「自然が好きでもっと知りたい」と思って生物学・生態学・林学などを学びますが、こういう学問の成果って、「この生きものが何匹いた」というような乾いた数字。ほんとはその発見に感動してるんだけど、論文には自分の感動のことなんて書かない。感動を書いたって業績にならない。逆にあやしいですよね。ところが感動からスタートしてないと、私はこの仕事をやってないと思うんです。

 森の自然で感動するのって、専門家に限らず一般市民でもありますよね。森に行きたい、行けないにしても、都会でも公園や街路樹にいやされる。その感情っていったい何なのか、正面から考えてみませんか。「森の感動」って言っても、それは森のうつくしさ?それとも神々しさ、たとえば巨木に対して持つような尊敬の気持ち?あるいは森の音や空気によるいやしの効果?いろいろ多面的に考える対象があります。

 もともと自然に興味のある自然科学系の学生だけでなく、美術・文学・哲学など、幅広い表現方法に興味のあるみなさんの参加を歓迎します。自然に触れたとき、自分に何が想起されるか。これは自分自身に向き合う貴重な機会でもあります。さまざまな視点から、自然と人間について考えるトレーニングになるでしょう。

 このポケゼミは、最初に行われる講義で学んだコンセプトにもとづいて自分で考え、その仮説をフィールドで検証し、考察してまとめるというスタイルで進行します。参加する学生各自が、自然と人間の関係性を示すための自分の方法を見つけます。少人数のポケゼミだから、お互いの考えをじっくり聞き、学びあうことができます。感じたことを分かち合い、語り合い、自分にとってのエコツーリズムとは何かを見つけよう。

芦生研究林ウェブページ:http://fserc.kyoto-u.ac.jp/asiu/Icon new window
自己紹介ウェブページ:http://fserc.kyoto-u.ac.jp/wp/staff/iseIcon new window

具体的にどんなことをやるの?疑問に思ったら、メールしてみてください。
伊勢武史 ise@kais.kyoto-u.ac.jp

伊勢 武史 他

フィールド科学教育研究センター/准教授
兵庫県立大学大学院シミュレーション学研究科/客員准教授

徳島県生まれ。26歳のときワイオミング大学に留学、その後ハーバード大学で博士を取得。生態系のコンピュータシミュレーションを専門とするかたわら、サイエンスコミュニケーションをライフワークとする。著書に)、「学んでみると生態学はおもしろい」「地球システムを科学する」(ともにベレ出版)がある。最近は、人間のこころとは何かに興味がある。進化生物学・芸術・思想などから多面的なアプローチをしようと模索中。