人間とは何か?生命現象の自然科学的・哲学的基礎 2015年度

2007年「生命とは何か?」湯川秀樹 生誕100年
2008年「創造性とは何か?」
2009年「進化とは何か?」チャールズ・ダーウイン生誕200年
2010年「統合科学への招待」
2011年「メタ生物学への招待-生命・こころ・環境の統合的理解に向けて-」
2013年「生きているとはどういうことか?」

(授業内容と目的)
 自分で考える力を伸ばしたい、教科書の内容には飽き飽きした、やる気のある雰囲気に浸りたい、そんな欲求に答えるべく、本年も文系・理系を問わずに、今回、テーマを「生きているとはどういうことか? 生命・人間・社会現象の自然科学的・哲学的基礎」として開講する。重要な点は、知識がいかにすれば構成できるかを自得することにある。「学習すべき内容」ばかりに気を取られていては、知識の洪水に埋没するばかりである。そうではなく、「学習方法」に視点を移すことによって、より効率的に学習内容を修得できるとともに、未知の領域にも果敢に挑戦できる可能性が開かれるのである。したがって、新たな知識を提供するということだけに焦点を当てることはしない。そうではなく、最高学府での学習意欲が掻き立てられるような構成を意識したい。
 2007年より、毎年テーマを変えながら提供してきたポケットゼミの受講学生は、文系・理系のほとんどの学部におよび、また男性も女性、さらには留学生も含まれ非常に多様な顔ぶれであった。

(研究プロジェクト)
 現在、京都大学研究強化促進事業 学際・国際・人際融合事業「知の越境」融合チーム研究プログラム【学際型】- SPIRITS ? (SPIRITS: Supporting Program for Interaction-based Initiative Team Studies)の一環として京都大学「統合創造学の創成―市民とともに京都からの発信-」プロジェクト(総括代表者: 村瀬雅俊 京都大学・基礎物理学研究所)が採択されています。
http://www.nics.yukawa.kyoto-u.ac.jp/Icon new window

(研究プロジェクトの概要)
 創造の瞬間、それは、宇宙の創生にはじまり、生命の起源やこころの進化から、文明の誕生など多岐にわたる。従来、このような創発現象は客観科学の立場から分析され、法則や原理が探究されてきた。しかし、私たち人間のこころが輝きわたる創造の瞬間も存在するということを忘れてはならない。アインシュタインによる相対性理論やダ・ヴィンチによるモナリザは、こうした主観的なこころのはたらきによる創造の成果である。確かに、創造の成果である新理論や芸術作品は、人から人へと伝承可能である。ところが、こころのはたらきそのものは表現不可能である。そのため、トルストイは「芸術家による創造の瞬間は解明不可能」と考えていた。本研究プロジェクトでは、物理学、心理学、看護学、社会学、教育学、博物学及びプロジェクト構成員の多様な分野の組み合わせによる対話を通じ、この解明不可能とされてきた‘未踏領域’を‘未科学への挑戦’として科学的に解明することを目指す。
本プロジェクトの目的は、この世紀の大問題である創造の瞬間にはたらく‘創発原理’を解明すること、そして、そのために必要となる新たな学問体系として異分野統合に基づく「統合創造学の創成」である。

(過去のゼミの成果)
1)村瀬雅俊 2007年度ポケットセミナー「生命とは何か?」講義ノート
http://ocw.kyoto-u.ac.jp/ja/general-education-jp/what-is-lifeIcon new window
2)村瀬雅俊 2008年度ポケットセミナー「創造性とは何か?」講義ノート
http://ocw.kyoto-u.ac.jp/ja/yukawa-institute-for-theoretical-physics/what-is-the-nature-of-creativityIcon new window
3)村瀬雅俊 2009年度ポケットセミナー「進化とは何か?」講義ノート
http://ocw.kyoto-u.ac.jp/ja/general-education-jp/what-is-evolutionIcon new window
4)国際会議「生命とは何か?」 組織委員長 村瀬雅俊 2007年10月
http://www.yukawa.kyoto-u.ac.jp/contents/seminar/archive/2007/ny2007/Icon new window
5)国際会議「創造性とは何か?」組織委員長 村瀬雅俊 2008年10月
http://www.kier.kyoto-u.ac.jp/ICAM/complexity/conference08.htmlIcon new window
6)国際会議「進化とは何か?」 組織委員長 村瀬雅俊 2009年10月
http://www.yukawa.kyoto-u.ac.jp/contents/seminar/archive/2009/yitp-w-09-14/ev2009/index.htmlIcon new window
7)国際会議「複雑現象とは何か?」組織委員長 村瀬雅俊 2010年10月
http://kuchem.kyoto-u.ac.jp/kinso/IIW2010/HOME.htmlIcon new window
8)京都大学国際フォーラム「新たな知の統合に向けて」組織委員長 村瀬雅俊 
2011年10月 京都大学百周年時計台記念館 百周年記念ホール
http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/ws/2011/2011kyo/Icon new window
9)国際会議「科学教育を推進する有識者の会」組織委員 村瀬雅俊
2013念10月 京都大学百周年時計台記念館 百周年記念ホール
http://www.kier.kyoto-u.ac.jp/GSEE_Kyoto/Icon new window
10)村瀬雅俊 ホームページ
http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~murase/Icon new window

(教員からのメッセージ)
 本ゼミの特徴は、さまざまな話題を提供しながら議論をすすめ、学問の本質を実感できることを目指している。また、絶えず変化のある形態を目指して、学生同士の意見交換、意見発表の場も設け、このセミナーを通して、自己意識の変革を実感できるよう計画したい。考えることの意義、難しさを実感してもらいながら、問題を発見するとはどういうことか、解決への道筋とはどういうプロセスかなど、具体的に考えていきたい。
 なお、参考図書とその内容は以下の通りである。
参考図書:村瀬雅俊 著『歴史としての生命-自己非自己循環理論の構築』(京都大学学術出版会、2000年)http://hdl.handle.net/2433/49765Icon new window
 本書は、生命科学、生物学の知識をただ提供する目的で執筆したのではない。そうではなく、生命現象の意義、およびその理由づけができるように、広範な知識を1つの全体として捉えなおす、いわゆる「メタ生物学」を構成する目的で執筆した。つまり、これまでの高等学校の教科書とは、根本的に異なる構成となっている。本書は、したがって、生命科学の知識ばかりでなく、認識がいかにして構成されるかを追体験できるよう、工夫されている。生命現象を理解するということは、認識について理解可可能でなければならないからである。みなさんの果敢なチャレンジ精神をこころから期待したい。

************* 2011ポケットゼミ 学生感想 *************
総合人間学部、女子
 このゼミの感想:このゼミで得たものの大きさは測り知れない。自分の認識している世界、あるいは認識している自分を、認識する。ゼミが始まったばかりのころは、このような見方をすると自分がどこにたっているのか分からないような、とても不安定な世界に自分がいることを感じ、落ち込みを感じた。しかし回を重ね、議論や先生のお話を通して、その認識の在り方は自分の人生における選択や判断の中で必ず鍵となっていくと思った。メタ認識、自分の目の前にある世界の絶対性の否定、今ここに起きている現象には必ずその逆の現象があることなど、ゼミをきっかけに自分の視野が入学前とは比べものにならないくらい切り開かれていることを実感している。京都大学に入学して、このゼミに出会えたことは幸運だったと思うと同時に、ここで見聞きし考えたことは、今後の人生において財産となっていくことと思う。
 新入生に対して:このゼミは難解な側面もありますが、このゼミの参加によって得られるものは大学生活を超えて人生全体を左右していく可能性が十分に有り得ます。先生が学生に「伝えたい」と熱心に思ってくださっていることも、このゼミの大きな魅力だと思います。

理学部、男子
このゼミの感想:メタ認識の実用例をいくつか学び、その中でメタ認識の上で重要となる「視点を変える」という作業が明確に見えてきました。また、授業の中で電磁波のもつ危険性に何度か話が及びました。今まで携帯電話の電磁波についての話は聞いたことがありましたが、このように集中して聞いたことはありませんでした。おりしもWHOがその危険性に初めて言及したこともあり、考えるよいきっかけとなりました。
新入生に対して:難解なテーマを一学期間ずっと学び続けるというのはおそらく大多数の人がはじめてだと思います。しかし、結局のところ、その難しさは徐々に新しい概念が自分の中で作り上げられる充実感を増大させるものです。あらゆる学部の人が同じ充実感を持てるゼミです。

医学部、男子
このゼミの感想:これまでの内容は、基本的に難しいものであり、また、教科書などにないような新しいものであった。時に抽象的で、やっている授業がどういうことに結び付くのかも分からないこともあった。しかし、そのような思想的な内容であったからこそ、同じゼミの仲間との議論が盛んになり、理解を深めることができたのだと思う。数ある授業・ゼミの中でも、意欲的な姿勢が求められるものであった。

理学部、男子
このゼミの感想:文系理系の区別に疑問を抱いてきたり、あるいは受験のための勉強に疑問を抱いてきた人は取ってみてほしいと思います。そういう区別のない内容を通して得たものは包括的で、単なる知識にとどまりません。内容は簡単でないですが、先生がいろいろな方法で伝えようと努力してくださるので、毎回集中して聞けば大丈夫だと思います。あと、シラバスを読むとカタそうに感じるけれど、先生は気さくで明るい方です。

法学部、男子
このゼミの感想:このゼミに参加して感じたのは、周りの学生は自分と同年代にもかかわらず、自分よりずっと深く物事について考えている、ということだった。自分は普段、周りをじっくり見るというよりは周りに流されながら生活していたので、この感覚は新鮮だった。また、当たり前だと自分が考えているものをそのままにするのではなく、もう一度、それがなぜ当たり前と言えるのか考えてみることが大事なのだと感じた。そうすることで当たり前だと言われていることの余事象にも目を向けることができるのだと思う。このことを普段の生活で実践していかなければ。

村瀬 雅俊

基礎物理学研究所、准教授
京都大学統合複雑系科学研究国際ユニット
京都大学宇宙総合学研究ユニット
研究室:基礎物理学研究所 新館 5階 513号室
1957年 石川県金沢市生まれ
専門:メタ生物学、理論生物学、複雑系生命科学