ミクロとマクロをつなぐ論理 2015年度

//授業内容、教員からのメッセージ//

 私が京大生のとき、友人たちとのセミナーはかけがえのないものだった。少し背伸びした本を読むのが楽しみだっただけではない。自分が分かったつもりになったことを喋ると、正しく理解していないことに気付いた。分からないことを伝えようとして、説明しているうちに分かったこともあった。このようなやりとりで、定期試験で高い点数をとる理解と本当の理解の間に絶望的な差があることも学んだ。ときには、早熟な友人の知識量に圧倒され、優秀な友人の鋭い問題解決能力をねたみ、自分を見失うようなこともあった。やがて自分の能力の範囲でできることを懸命にすることを妙な焦りは消えてきた。これらの営みは講義で得られるものでなく、気がつくと、セミナーが自分の勉強の駆動力になっていた。(講義は、体系的知識を素早く得るのに有効だし、講義者と対決する場として捉えると実に楽しいものである。私が講義を受けているときには有効利用できなかったが、講義をする立場になってそう思う。)

 自分の過去の体験を悦にいって語る年配者に碌なものはいないのを承知の上で、敢えて個人的昔話を紹介した。私は2012年の11月に京大に出戻ってきたが、そのとき真っ先に思い出したのが1,2回生のときのセミナーだった。どんな様子なのかな、ともかく、1,2回生と会ってみよう。せっかくだから、セミナーにしよう。これが2年前にポケゼミを開講した動機だった。想像していたよりはおとなしい学生たちだったが、やはり講義と違って個性も分かるので、セミナーをやって良かった。そして昨年度が2回目のセミナーになる。2年前のテーマは「エントロピー」で昨年度のテーマは「時間の矢」だった。を取り上げることにした。今年度は、「ミクロとマクロをつなぐ論理」にした。
 ただし、このセミナーは教科書を読む標準的なセミナーではない。「ミクロとマクロをつなぐ論理」に関する問題を色々な角度から考える。大きな流れは用意されているものの、おそらく脱線しながら、試行錯誤しながらすすんでいく。各々のセミナーで「前回までにでた問いを解き、次の問いを提示する」というサイクルをまわしたい。こんなことができるのだろうか。

 「問いを発する人」「問いを解こうと盛り上げる人」「問いを明晰に解決する人」「それでは不満な人」と役者がそろうと楽しい会になるが、どうだろう。1回生の指定があるので、どこまでできるだろうか。うまくいくかどうか分からない。挑戦的な企画でもある。この企画にのってくれる人が少しでもいたら嬉しい。

2012年6月。ジリオ島(イタリア)での国際会議で質問中の様子。私の雰囲気が何となく分かる好きな写真である。

佐々 真一

理学研究科 教授 
1964年3月24日生まれ 
徳島県出身 
専門分野:統計物理