薬と医療 2015年度

 薬学は、「くすり」に関する総合科学です。基本となる学問領域は、物理、化学、生物と多岐にわたりますが、これら領域の知識と経験を集結、統合して創られた医薬品が医療現場で使われています。くすりは体の中を動き、標的部位に到達し、そこで生体の分子と相互作用することによって効果を発揮します。本ポケットゼミでは、実際の医療現場で使われるくすりについて、自らがそれを開発する立場から、また自分が患者として使う立場から考えることで、薬学という総合科学の一端に触れてほしいと考えています。授業は、SGD(small group discussion)という3~5人程度の少人数のグループを単位にした演習形式で進めます。教員を交えて学生同士で意見交換をしながらくすりに関する理解を深めてもらいます。担当の教員は、薬剤学、薬理学、ゲノム創薬の専門家で、各専門の立場から適宜アドバイスはしますがあくまでも学生が中心となります。自分自身が調べた内容や自分の意見を出し合って学生同士でコミュニケーションする形でSDGを進めます。授業の最後には、SGDで話し合った内容をまとめてプレゼンテーションしてもらう機会も設けています。以下に取り上げる話題について紹介します。

(1)薬と製剤:医薬品開発における製剤化の目的とその効果
 くすりは使いやすいように、錠剤やカプセル剤など医薬品「製剤」という形に仕上げられています。普段何気なく飲んでいるくすりにも実はいろいろと工夫が施されています。薬学部には模擬薬局がありますが、そこで本物のくすりを使って、代表的な製剤の表面や内部を観察して、製剤化の目的や技術について学んでもらいます。意見交換を行い、皆さんが考えた医薬品製剤の有効性、投与法、製剤化の工夫について発表してもらいます。

(2)ゲノム情報と薬:ゲノム情報とデータベースの利用
 ヒトゲノム情報を理解し、効果的に利用することで、より効果が高く副作用の少ないくすりを開発することが可能になりつつあります。膨大なゲノム情報を取り扱うための基礎として、ゲノム情報、研究情報を取り扱うデータベースについてみなさん自身で調べ、結果を発表してもらいます。

(3)薬物治療と個人差:個別化医療の展望と課題
 わたしたちはそれぞれが個性的な存在です。診断された病名が同じであっても、病状は一人一人違っていて、くすりの効果も同じとは限りません。近年の医療現場では、一人ひとりの患者さんに対して最適な治療を行う「個別化医療」が注目を集めています。個別化医療は、治療効果の増強、副作用の軽減などが期待される反面、いくつかの問題点も指摘されています。そこで個人差の一例について実際に調べるとともに、個別化医療についてSGDで討論し、皆さんが考えた成果を発表してもらいます。

(4)薬の作用機構:くすりと生体の相互作用をもとに考えるこれからの創薬
 くすりをつくる時には設計図や道順を必ず考えますが、その通りに成功することよりも途中で方針が大きく変更されることのほうがこれまでは多く見受けられました。ある病気を治すためにつくったくすりがその病気にはあまり有効ではなかった代わりに、別の病気によく効くことがわかった例がいくつもあったりしたのです。そこで本演習では、これまでに開発されたくすりの研究経緯を、その病気の成り立ちも含めて調べた上で分類し、くすりの作用機構に関する問題点も列挙して整理することで、これからの創薬の方向性について皆さんが考えたアイデアを発表してもらいます。

 コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力は、皆さんがこの後、社会に出る最後の関門である採用面接はもちろんのこと、大学や大学院で研究をする上でもとても重要です。このポケットゼミは、これらの能力を磨くとてもいい機会でもあります。是非、参加してください。

西川 元也 他

【代表教員プロフィール】
西川 元也
所  属:薬学研究科
職  名:准教授
出身地 :京都府
専門分野:薬剤学、ドラッグデリバリーシステム