京の水資源 2015年度

京都府土木事務所への実地見学
琵琶湖疎水水路閣の実地見学
鴨川水棲生物の調査実習
京都市でのアーバンヒーティング調査実習

【目的】
 水資源は、人間にとって最も身近で重要な資源であり、利水・治水・環境・生態のほか、人・社会と水との関わりそのものを含んだ幅広いテーマです。また、21世紀は「水の世紀」と言われているように、近年、水資源の重要性や水資源問題の複雑さが世界的に認識されているところです。さらに最近、気候変動に伴う地球温暖化問題にも強い関心が持たれていて、研究面でも気候変動や水資源の将来予測が盛んに行われています。例えば、日本の水資源は百年先にどう変わっているのかといった疑問に答えようというものです。この授業では、京都という身近な土地における具体例を取り上げながら、様々な側面を持つ水資源とそれにまつわる諸問題について見識を深めることを目的とします。

【内容】
講義または演習を行っていきます。また、関連行政機関・市内水域で、現地での見学や現場作業の体験を通じて水資源に関する知見や諸課題について学んでいきます。具体的には、以下の課題について、1課題あたり1~2週の授業をする予定です。(ただし、都合で授業の順番が入れ替わる可能性があります。)

1. (講義/室内演習)
ガイダンス & 統計的に見た京の治水・利水
2. (講義/室内演習)
実際に起きた京の洪水氾濫および治水の現状
3. (講義/実地見学)
京の河川・地下水と都市化
4. (講義/実地見学)
京の気候と水資源
5. (講義/野外実習)
鴨川の生態系サービス
6. (講義/野外観測)
京のアーバンヒーティング
7. (講義/実地見学)
京の河川の土砂管理
8. (室内演習)
レポート作成

 これらの授業を概説すると以下のようになります。
 1.では、治水と利水を目的とした河川・湖沼マネジメントを説明したのち、降水量や流量のもつ不確かさにどのように対処すべきかを確率統計論的立場から考えます。また具体的な観測データを用いて解析実習を行ってもらいます。
 2.では、ガイダンスでは平成24年9月の台風18号によって京都市や亀岡市で生じた洪水氾濫を例に、降雨特性やダムの洪水抑制効果などについて考えながら、その豪雨によって京に何が起きたのかを詳しく分析します。また淀川水系の治水の現状についても学習します。
 3.では、京都の地下水の現状と鴨川の関係、日常生活との関係、都市化進行が及ぼす地下水への影響などを、実例を挙げながら考えます。さらに京都府土木事務所を訪問し、京都特有の河川管理の難しさを学習します。
 4.では、京都の気候と主に利水・治水面での水資源に関する特徴を、その歴史的変遷に触れながら学習します。また、地球温暖化などの気候変動が将来の京都の気候や水資源に与える影響についてどの程度議論可能かについても考えます。実地見学では、明治期における京都の近代化と発展に大きく貢献し、今なお京に水を安定的に供給し続ける琵琶湖疏水を見学します。
 5.では、鴨川生態系が人々に与えている各種恩恵について実体験を通じて学びます。特に食文化に繋がる自然の恵みについて存続のための条件を考察します。
 6.では、京都市は盆地の大都市であり、夏季の酷暑が問題となっていることを受け、ヒートアイランド現象の発生原因やその緩和策について講義するとともに、実際の気象データを例として、ヒートアイランドの発生する時刻や季節などを示したり、ヒートアイランド現象の再現や緩和策検討のための都市気象シミュレーションを紹介します。野外観測では、都市内の様々な場所や構成要素により温度が違うことや、気象台での気温と現場で感じる実際の温度との違いを実感することを目的として、京都市内各地を気温を計測しながら、放射温度計を用いて、道路や壁や屋根面の表面温度を計測します。
 7.では、比叡山を源流として祇園小橋から鴨川に流れる白川の歴史を辿りながら、河川と人間の関わりについて考えます。この白川は銀閣寺の庭でも有名な白川砂の産地として知られる一方、洪水時にはたびたび土砂災害をもたらした暴れ川であって、白川と住民の関わりは深く、考察の価値があります。
 8.では、授業終了に際し、各授業で課された課題をまとめ、総括したレポートを作成提出してもらいます。

 水の話に興味がある人、京都というまちを題材にした講義の受講を考えている人にお勧めです。
 なお、本授業は予習の必要はありませんが、シラバスに挙げた参考書籍を事前に読めば講義理解がより深まります。復習については、テーマ毎の講義受講後に板書の写しや配付資料に目を通して、その日のうちに十分時間を取って行うと授業で得られたことが再確認できます。受講内容の理解を深めたうえで、その翌週以降に行われる各テーマ演習/実習/見学に臨めば、ここで得た知識と現場の体験を融合でき、「来て見て触る水資源」を実学的に理解していくことが可能です。

田中 茂信 他