フランス語で歌おう ! 2004年度

「フランス語で歌おう」というシャンソンの授業を思いついたきっかけは何ですか?
 わたしはもともとシャンソンが大好きで、若い頃それがきっかけでフランス語の勉強を始めたくらいです。これまでにNHKのラジオ講座応用編や各地のカルチャー・センターなどでいろいろなシャンソンを紹介し解説してきました。「ポケット・ゼミ」は新入生を対象とするセミナーで、期間も前期の3ヶ月余ということなので、シャンソンを歌いながらフランス語の発音に強くなろう、というのが松島ゼミのねらいです。われわれ日本人は「シャンソン」と聞くと、「枯葉」のようなラブ・ソングを思い浮かべますが、《chanson》というフランス語は英語の《song》と同じく「歌」という意味なのです。ですから、わたしの用いる「シャンソン」という語は、わらべ唄や民謡から始まって、最新流行のラップ、ライに至るすべてのジャンルをカバーしています。

どんな雰囲気で授業をされているのですか?
 学生たちをリラックスさせて、歌いやすい雰囲気を作るように努めています。そのためにはシャンソンのカラオケを用いることもあります。最初はやさしい民謡(たとえば、Frére Jacques, Au clair de la luneなど)を聞かせて、発音の説明と指導をします。それからおもむろに歌唱指導に移るのです。Frére Jacques(修道士ジャック)のような繰り返しの多い単純な歌の場合は、カノン(輪唱)の指導もやります。3つか4つのパートに分けて順番に交代しながら歌うのです。そのようにして次第にフランス語の歌に慣れてもらってから、「枯葉」や「薔薇色の人生」のような、ちょっぴり「内容のある」大人向けのシャンソンに移行します。日本の国立大学ではきわめてユニークな「歌のおじさん」ならぬ「歌う教授」というわけです。

今年度はどのようなシャンソンを歌いましたか?
 民謡では、上に挙げたAu clair de lalune, Frére Jacquesから始めてSur lepont d, Avignon, Aux marches du palais, Voici la Saint-Jean, Trois jeunes tamboursなどを歌いました。いずれも、日本の民謡のイメージとはちがって、リズム感豊か、メロディーも明るいものが多く、学生さんたちの好評を博したようです。現代のシャンソンとしては、「シャンゼリゼ大通り」Aux Champs-Elysées,「枯葉」Les feuilles mortes,「ブルネットの婦人」La dame brune,「兵隊が戦争に行くとき」Quand un soldat…,などを取り上げました。なかんずく、「シャンゼリゼ大通り」と「枯葉」に人気が集中しました。前者は歌いやすく、はじけるようなリズムがあるという理由で、後者は前に聞いたことがある(それも英語の歌として!)ので親しみやすいからという理由で…。
 フランス語の国歌ということになっている「ラ・マルセイエーズ」も歌ったのですよ。実はぼくにとってナショナリズムは、文字通り親のかたきなのですが…(父が兵隊に取られて戦地で無駄死にをしたのです)。「ラ・マルセイエーズ」成立の歴史的な背景から始め、ゲンズブールによるそのパロディ(レゲエ・ヴァージョン)も紹介しながら、現代フランスではこの歌が一種反動的な役割を帯びていることまで話しました。きょうびの若者にこんな話をしてもわかってもらえるのかなあ、なんて空しさをいだきながら…。

それで、学生さんたちの受けはいかがでしたか?
 全体としては好評でした。京都大学紹介のためのビデオ撮影を含めた取材が行われたとき、インタビューに応じてくれた学生たちはこんなことを言っていました。
「普通のフランス語の授業とちがって、みんなで大きな声で歌えるのが楽しい」「授業に参加しているという実感が沸いてよい」「講義形式の一方的な授業ではなく、気軽に参加できる」「教官との距離、他の学生との距離が近く感じられる」等々。
また、これまでシャンソンを聴いたことがなく、フランス語歌謡について無知に等しかった学生が、フランス語とシャンソンに興味をいだいてくれるようになったこと、シャンソンの奥の深さに気づいてくれたことはうれしいかぎりです。これだからポケット・ゼミはやめられない。来年度も続けます!

先生はどんなジャンルの音楽がお好きですか?
 やたらに騒々しいばかりのハード・ロックをのぞけば、どんなジャンルでも聴きます。でも、基本的にはジャズのフィーリングの軽いノリの歌(ボサノヴァなど)や、ブルース、ファドのような泣かせる旋律が好きです。わたしの一番好きな歌い手は、ジョルジュ・ブラッサンスというシンガー・ソングライターです。もう二〇年以上も前にこの世を去ったのですが、今でもフランス人の間で絶大な人気をもっています。その他では、モンタン、ムスタキ、バルバラ、グレコ、ゲンズブールなどの歌もいいですねえ。

最後に、フランス語がうまくなるコツがあったら教えてください。
 連日、フランス語の世界にドップリつかることです。もしフランスに留学できるのであれば、これに越したことはないけれど、そう簡単にだれにでもできることではない。自らフランス語に接する機会を作り出すのが肝心です。フランス人の友達ができれば最高だが、これもそう簡単にはできない。フランス語の本を読むだけではフランス語は上達しません。語学学校に通ったり、フランスの映画やビデオを見て聞き取りの力をつけましょう。NHKラジオのフランス語講座を毎日欠かさずに聴くだけでも効果は高い。なにしろ一ヶ月の授業料(テキスト代)はわずかの350円なのだから、ラーメン一杯より安いのです。こんなに安い授業料で手取り足取りていねいに教えてもらえるのですから、利用しないのはアホです。かく申すわたし自身、まがりなりにもフランス語を使いこなせるようになったのは、高校生の時からNHKのラジオ講座でフランス語の学習を始めたからなのです。京大に入った時には既に綴りの読み方をマスターしていたので、みんなが難しいというフランス語の発音にはなんの苦労も感じなかった。おや、オチが自慢話になったのはまずかったかな。失敬しました。

*「フランス語で歌おう」の授業を見せていただいて、教官も学生も楽しみながら授業をしているという印象を受けました(一番、先生が楽しそうでしたが…)。あっという間に、時間が過ぎていった感じです。フランス語の授業で見る松島先生とはまた違った面を見ることのできる貴重な授業です。

松島 征

高等教育研究開発推進センター
大学院人間・環境学研究科教授
1942年神戸生まれ
専門はフランス語・フランス文学、文化社会論(メディア・スタディーズ)